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指しゃぶりについて

お子様の指しゃぶりやおしゃぶり使用について
(歯科医師としての考察)
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1.6才や3才の乳幼児歯科健診時やお母様への講話その他色々な機会に、「指しゃぶりやおしゃぶり」についてよく質問いただきます。専門分野の違いにより意見の異なりがありますが、歯科医師として「指しゃぶり・おしゃぶり」についての問題点をいくつかの視点から書かせていただきます。
指しゃぶりは歯並びを悪くする原因の一つです。私は3歳ぐらいまでは指しゃぶりは異常とはいえませんので、無理にやめさせる必要はありませんが、3歳を過ぎたら、指しゃぶりは徐々にやめさせるように一般的には注意をさせていただいております。大きくなっても指しゃぶりを続けることによって、歯の並び方だけではなく、顎の成長にも大きく影響を与えます。指のしゃぶり方によっても違いますが、開咬(噛み合わせたとき、後ろの歯だけ噛み合わさり、前歯で噛むことができない、口がいつも開いた状態になっている)や下あごを押さえるように指をしゃぶる場合、下あごの成長が抑制されて骨格的な出っ歯になってしまう場合もあります。さらにこれが発端となり弄唇癖(ろうしんへき)(下唇を前歯で噛んだり、吸い込んだりする癖のことの総称)・舌突出癖(“舌の癖”がある子どもは,呑み込むときに上下の前歯の間に瞬間的に舌を押し出します。)を起こし、後に口呼吸の原因になることがあります。


開咬
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注)鼻呼吸と口呼吸について
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上の写真は口呼吸をしている子供と鼻呼吸をしている子供の写真です。左の子供の口元は緊張しており、無理やり口を閉じている様子がわかりますか。正常な鼻呼吸ができないために常に口呼吸をおこない、そのために歯が前にでてきて、いざ口を閉じようとしても閉じられなくなっているのです。お口の周りの筋肉がうまく発達できずに「口がポカン」と開けている子供さんを見たことはありませんか??
最近、口呼吸についての色々な問題点が指摘されるようになってきました。
歯科領域の疾患にとどまらず、さまざまの疾患に影響しているのです。
鼻の役割は何でしょう?
本来、人間を含め哺乳類は『鼻』で息をする生き物です。しかし、哺乳類でも人間だけはなぜか『口』で息ができるようになってしまったのです。では、口で息をすると、どうして病気になるのでしょう??
まずは、鼻の機能についてお話します。鼻は、臭いをかぐだけが仕事ではありません。息をした時に少なからず周囲を飛んでいるホコリやカビの菌、その他体にとって侵入されることが好ましくない物をせき止める「空気清浄機能」が備わっています。口呼吸をしている人は、それらの有害な浮遊物を直接体の中に取り込んでいるのです。これだけでも口呼吸の怖さがわかっていただけたことと思います。
しかし、鼻の機能はそれだけではありません。口で空気を吸い込むとすぐに口の中が乾燥してくることでしょう。
しかし、鼻で息をするとどうですか?
鼻で息をしていてのどがカラカラなんてことは、あまり経験したことがないのではないでしょうか?
また、濡れたタオルが数秒で凍るような・バナナで釘が打てるような、極寒の中でも喉が凍ってしまうことはないですよね?
このように鼻には「加湿・加温機能」が備わっています。生き物が生きてく上で『鼻』の大切さ・鼻呼吸の大切さがお解かりいただけたでしょうか?
最近、いろいろな原因で口呼吸する子供が最近増えているように感じている歯科医は私だけではないと思います。
「鼻は、空気浄化装置である。加湿器の役割もあり、適度に加湿された空気は肺で酸素を吸収しやすくなり、脳も活性化される。」と言っています。また、鼻呼吸の習慣を乳幼児のころから習慣づけることが大切です。
また、口呼吸のお口の中での悪影響は?
口呼吸では口の中が乾燥し、唾液による自浄作用も働かなくなるので、口臭が発生しやすく、口の中の細菌も増えて虫歯や歯肉炎になりやすくなります。


口呼吸が影響を与えている疾患の例


" むし歯・歯肉炎・歯周病
" 出っ歯等の歯列不正
" 風邪
" アトピー
" 気管支喘息
" 自律神経への悪影響 etc...

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指しゃぶりをする指の種類や場所にかかわらず、強く指しゃぶりをするお子様ほど、強く影響があらわれます。しかし、やめさせるための私たち歯科医師からの指導は、お子様の身体的・精神的成長発達やお子様を取り巻く家庭環境等を考慮して慎重に行う必要があります。
指しゃぶりをするからと言って必ず開咬や上顎前突になるとは限りません。開咬や上顎前突になってしまう指しゃぶりは、その頻度・強さ・時間等によって影響されるので、お子様の現状をしっかりと診断し、お子様の状況に合わせた指導をお母様に行うよう心がけています。
例えば、多少の悪影響がではじめても、早期に指しゃぶりの習癖が消失するかおしゃぶりを取ることができ、口腔周囲筋の発達に問題がなければ、自然治癒する可能性が高いです。
一般的に指しゃぶりを始めて、1年未満では大きな影響は認められませんがしかし、強い習癖が1年半以上続くと、1.6才健診でその弊害の兆候が見られ始め、3才の健診時にはすでに開咬や上顎前突になってしまっている場合が多くみられます。指しゃぶりは、いったん強くなってしまうと止めさすことは難しく、年齢が上がれば上がるほど、止めさせる難易度は増してしまうように思います。また、強く悪影響が出始めたからと言って、私たち歯科医師が不容易に強く指導することは、色々な事情を抱えたお母様に過剰なストレス等の精神的負担を増加させ、かえって健全な母子関係にヒビをいれる可能性もあり、私たち歯科医師も慎重な対応が必要とされます。
一般的に小児科医の先生方小児心理の専門家の先生方は、指しゃぶりを全面的に否定することはほとんどありません。指しゃぶりを「心の栄養」・「心の杖」と表現し、“心の発達を育む”ために必要な道具として捉えられている場合が多いです。また最近は、指しゃぶりは、人生の初期において誰もが行う普遍的な行為とされ、指しゃぶりの悪い面だけを捉えることは、子どもの一面しか捉えていないという考え方もあります。
以前は歯科医学界においては、指しゃぶりは単純に問題行動ととらえられてきました。
しかし、乳幼児の行動にはそれぞれの意味があるため、指しゃぶりを行う意味について詳しく研究されました。
まず、1歳までの乳児期の指しゃぶりの様子について。
あるお母様の日々の発達記録から、その中で乳児期における手と口に関する主なものを原文のまま取り出してました。


3週男児:お腹のすいたとき、手を口に持っていこうとするが、うまくいかず手をバタバタさせる。
1M:おっぱいを飲む時、ガーゼを握ったり母の脇をつかむ、何かに触りたいらしい。
1M:右手を握って、口元へ持っていってしゃぶっている。衣服についているボタンもクチャクチャしゃぶる。
2M:ベットにとりつけてあるメリーゴーランドが動くのを目で追うようになる。
指しゃぶりならぬゲンコツしゃぶりを始める。眠いときなど両手のゲンコツをチュパチュパ音をたてて吸っている。
2M:指のおしゃぶりをするようになり、一人で起きているときに、そで口や指をペロペロなめる。
2M:手を一生懸命しゃぶります。時々じっと手を見て握ったり、開いたりします。
3M:「ガラガラ」など音の出るおもちゃをもたせると自分で振る。指なめを楽しそうにおいしそうにする。
3M:自分の手を見るようになった。握りこぶしを不思議そうに動かしながら眺める。
3M:指しゃぶりも盛ん、指を4本も口にいれて、豪快な音をたててしゃぶる。
指しゃぶりに口を取られて、あまり会話をしてくれない。
3M:自分の手が一番のおもちゃ、にぎったり開いたりしてよく見つめている。
2・3本の指を口のなかいっぱいに入れるので、吐いてしまうのではと思い心配になる。
3M:自分の左手をゲンコツのまま機嫌の良いときにしゃぶろうとする。
始めはうまく手が入らずイライラしているが、口に手がつくと声を立てながら吸っている。
4M:指しゃぶりをするようになりよだれが出る。
4M:自分の手に興味を持ち、ずいぶん長い間表にしたり、裏にしたり眺めていることが多い。
5M:手を動かしたり、口をすぼめたり下唇をなめたりして音がするのを楽しんでいます。
おっぱいを下の歯グキで噛んだり髪の毛を引っ張ったり、抱いている人の口に手を入れたり、いたずらっ子になりました。
寝ころんで自分の足を手でいじったり、口で頬張るのが好きです。
6M:おもちゃ大好き,手あたりしだいなめている。


これが乳児期の指しゃぶりの実態です。
このお子様においては、指しゃぶりに関する項目は、1カ月目から始まり、3カ月時をピーク
にして5カ月目までに頻繁に見られ、以後減少する傾向がみられました。
お母様に講話をさせていただいたときに「生後、手をさかんになめていましたか?」という質問をしたところ、92.8%の乳児が経験しており、その頻度は生後2カ月時で49.3%、3カ月で75.8%であった。
以上の調査から、この時期の指しゃぶりは、誰もが行う普遍的な行為であることがわかります。
一般的に乳児期の行動は、成長・発達における重要な意味が必ず存在すると言われております。
指しゃぶりは、一般的に乳児期から幼児期の後半まで見られます。
その頻度は、生後2ヶ月頃から急増し4-5ヶ月で、ほぼ100%見られるが、以後減少し、3歳時では約20~30%となる。このことは3ヶ月時と3才時の指しゃぶりの原因は、異なることを意味していると推測されます。
別の視点から指しゃぶりをさらに分析してみましょう。
指しゃぶりの原因を年齢と要素から3つに分けてみましょう。
1:乳児期(1才まで)
生理的な指しゃぶり
2:幼児期前半(1才から3才まで)
心理的な指しゃぶり
3:幼児期後半以後(4才以後) 癖としての指しゃぶり

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指しゃぶりの頻度は、これらの3つの原因の集合体と考えられると思います。 (図1)
さらに別の見方をすれば、指しゃぶりを行う意味も次の2つに分けられと思います。
A:「発達過程で必要な意味のある指しゃぶり」乳児期から幼児期前半
B:「意味のない指しゃぶり」幼児期後半以後にみられる習癖など・・
さらにAの「意味のある指しゃぶり」には、乳児期にみられるような“生理的
な指しゃぶり”これは手や口の機能発達の過程にみられるも
のと考えることができます。
そして母子関係や環境因子に基づく、子どもの“精神発達に関わりがあるもの”に分けることができます。
そこで発育途上で必要な意味のある乳児期の指しゃぶりについて考えてみましょう。
さて今、なんらかの理由でまったく手を口にもって行ったことのない幼児がいたとします。
そして目の前に、おいしそうな食べ物があるとします。この幼児は、どうするでしょうか?
欲しいと思っても、うまく口に運んで食べることができないと思います。
何故なら手を口に持って行った経験がないからです。
ここで私達の日常の食事について考えてみよう。
まず目で食べ物を見て、手を伸ばして箸でつまみ、口へ持って行き咀嚼する。これだけの動作の中で脳はさまざまな働きをスムースに行います。情報は、まず目から脳へ行き、脳から指令が出て手指を動かせ食物をつまむ。そしてつまんだものを口へと運ぶ。
この時、脳の中では目、手、口などと相互に神経回路が形成され情報の受け渡しを行っている。
しかし、出生時においては、脳と目、脳と手、脳と口と、それぞれが独立した回路であり、脳の中ではつながっていない。だから、このような経験がなければ、手で食物をつまんだとしても、手は口がどこにあるかわからない。乳児期に指しゃぶりを行う中で、脳の中で目と手と口とを結ぶ回路(協調運動)が形成される。これが発達に必要な意味のある指しゃぶりなのです。

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今回は、別の意味から生理的な指しゃぶりについて考える。
お子様がおなかの中にいる胎生14週における胎児が指しゃぶりをしているという報告があります。出生時にすでに指に“吸いダコ”が見られることもあります。
面白いことに、妊婦が空腹時には指しゃぶりの頻度が増加すると言われております。
胎生期の指しゃぶりは、生後の吸啜行動の準備をしているといわれております。
さて出生時に見られる“原始反射”( 新生児にみられる外部からの刺激に対する反射的な行動の事で、結構な種類があります)摂食や防衛など生きて行くために必要な反射である。


口腔周囲の主な原始反射として
1.口唇探索反射:唇や頬に乳首が触れると顔を乳首に向ける。
2.口唇反射:唇を刺激すると、口唇を丸めて突き出し乳首を捕捉する動きをする。
3.吸啜反射:唇に乳首が触れる徒、母乳を吸い込もうとする。これらがなければ、新生児は哺乳することができない。
4.咬反射:指で歯グキを刺激すると咬もうとする。肉食動物が獲物に咬みつく。
5.舌の挺出反射:固形物を与えると、舌を突出させ排除しょうとする。


以上のように口腔に多くの反射の誘発ポイントがあることは、新生児にとって口は鋭敏な、そして最大の感覚器官と考えられます。 新生児や乳児が、おもちゃを舐めるのも、こぶしを舐めるのも、足の指まで舐めるのも口で世界を感じ取っているからです。
鋭敏な感覚器官であるほど、強い刺激に対しては弱くなります。
舌の挺出反射を例にすると。新生児に固形物を与えると、舌を突出させ排除しょうとする。それを受け入れると窒息する可能性があるための反応です。しかし、このままではいつまでたっても固形食が食べられない。そこで徐々に、固形食に慣らせる必要があります。これが離乳のステップの重要なポイントです。
これを通じて、口腔感覚を鈍感にします。口腔の感覚は、いつまでも鋭敏過ぎては困ります。
さて原始反射は、脳幹部による反射でありますが、生後4ヶ月頃より見られなくなります。
これは上位中枢の発達や、さまざまな感覚刺激に対し鈍感になるためです。
また、咬反射のため歯ブラシを咬み込むことも多い。この時期は歯磨きを嫌がって、口を閉じるのではありません。
さて、これらが改善されたきっかけとして“指しゃぶりを始めた”という理由が多い。手を口に持って行くことで口腔が鈍感になり、咬反射が消失したと考えられる。
指しゃぶりには原始反射を消失させ、口腔を鈍感にする働きもあると考えられます。
最後に指しゃぶりに対する私のお母さまへのアドバイスを簡単にまとめてみましょう。
しゃぶりも歯並びを悪くする原因です。3歳ぐらいまでは異常とはいえませんので、無理にやめさせる必要はありませんが、3歳を過ぎたら、指しゃぶりは徐々にやめさせるようにしましょう。大きくなっても指しゃぶりを続けることによって、歯の並び方だけではなく、顎の成長にも大きく影響を与えます。指のしゃぶり方によっても違いますが、下あごを押さえるように指をしゃぶる場合、下あごの成長が抑制されて骨格的な出っ歯になってしまう場合もあります。


指しゃぶりをやめさせる基準を以下にあげます。
1、3歳をすぎても指しゃぶりをしている。
2、指だこがある。指がふやけている。
3、歯並びが悪くなってきた。
4、口元が出っぱっている。
5、食べ方や嚥下の仕方がおかしい
6、発音がおかしい


また、以下のようなときは様子を見ましょう。
1、2歳ごろまで。
2、歯並びが悪くなっていない。
3、ときどきしゃぶるだけ。
4、明るく元気に過ごしている。


やめさせるにはどうしたらいいでしょうか。以下のことに注意してください。
1、やめたほうがよい理由を子供に出来るだけわかりやすく説明する。
2、子供の気持ちも尊重する。
3、がんばったときは誉める。
4、子供の努力を形にあらわして記録させる。
5、目標時間を徐々に高くする。
6、ごほうびをあらかじめ教えておく。(あまり好ましくない)
7、小物を利用して指をしゃぶりにくくする。


お子様の指しゃぶりでご心配やお困りのお母さまは、遠慮なく、出来るだけ早期にかかりつけの歯医者さんにご相談ください。


注)
弄唇癖(ろうしんへき)唇を前歯で噛んだり、吸い込んだりするのことの総称。唇の力が常に歯にかかることになるので、不正咬合の原因になります。最も多いのは下唇を咬む癖で、この癖があると上あごの前歯は前方に、下あごの前歯は内側に倒れることになり、出っ歯の原因になります。
舌突出癖“舌の癖”がある子どもは,呑み込むときに上下の前歯の間に瞬間的に舌を押し出します。また,呑み込むときに前歯を押す力は,正常な人の2倍以上の力になるため,出っ歯や前歯が咬み合わないような歯ならびになります。を引き起こし、
後に口呼吸の原因になることがあります。